【夜による作曲と歌劇】
屋根裏部屋 2


お祖母さまは大きな鏡をまえで安楽椅子に揺られながら鏡の中の年老いた女にこう言った。
「光子には父親も母親もいないことにしているわ。そもそも、あの子はふたりがどうしているのかもわからないだろうし、ふたりが自分を愛してくれたかも曖昧なもので、両親についてたしかな記憶は一切ないでしょう。光子はぼんやりした赤ちゃん時代を過ごしたんです、だからわたしは迷わず屋根裏部屋に放りこむことができたの。光子はぼんやりした子でほんとうに幸せよ。光子は7歳を終えようとしているのね。でも、自分が7歳であることすら知らないわ」
そのとおりだ。
光子はただ光を恐れて、死のささやきを恐れて、悪夢を恐れる壮絶な日々をじっと息をはりつめて暮らしていた!
みしみしと軋む屋根裏部屋は、光子に言葉さえ与えてくれなかったが、かわりに敏感すぎる感受性を与え、不気味な音楽の存在を絶えず教えることになった。
「かわいそうに光子は7才になるというのに、ぜんぜんおしゃべりができずに、ドモリと唸り声と大きな悲鳴とがその代わりをしているの。なんて不吉な音!あんなのを人間と呼ぶにはとても苦労と無理が必要だわ。光子は喜びも悲しみも知らないでしょうが、恐怖と空腹だけはとても貪欲に表現することを学んだわ」
お祖母さまは、光子が可哀想に自業自得で苦しんでいると思っていたし、自分にはどうにもできない程につまり手遅れで見守ることしかできないのだと思っていた。
(これはひみつよ。)祖母は不思議な薄笑いを浮かべて鏡の中の老婆にささやくと、ふたたびしゃべりだした。

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