『歴史のなかの邂逅ー四』-司馬遼太郎

●日本人の名前ー②

✪同じ参議でも、のち民権運動に関係してゆくような連中は、通称のままを戸籍名にした者が多い。土佐の板垣退助、後藤象二郎といったような連中である。

西郷隆盛の名前については、面白いはなしがある。かれは通称ははじめ吉兵衛と言い、のち吉之助と改めた。幕末、西郷吉之助で通っていた。
ところで維新後、名前を届け出なくてはならなかったとき、なにかの用でかれは東京にいなかった。代理で届け出たのは、同藩出身の吉井友実である。吉井はそれまでは、幸輔と称していた。西郷とは古い同志で、幕末つねに西郷の身辺にあり、友人ながらも秘書のような役目をしていた。歌人吉井勇の祖父にあたる。

「ハテ、西郷の名乗りはどうじゃったか」

と、かれほど西郷の日常に密着してきた人物でも、その名乗りまでは知らなかったらしい。ついでながら西郷家の系図をみると、代々隆の字がつく。名乗りの一字だけを世襲するのが、維新前のごく一般的な風習であった。

「たしか隆の字がつく」
と、たれかがいったらしい。吉井友実はあっと思いだし、

「隆盛じゃった」

と、それで届け出た。
ところが、西郷隆盛というのは、西郷の父親の吉兵衛の名乗りで、吉井はそれを記憶していて、混同したらしい。当の西郷が戻ってきて、吉井から事情をきき、礼をいったがあとで吉井に、

「おいは、隆永(たかなが)じゃっど」

と、こぼしたという。日本史上の巨名になったこの人物の姓名は、吉井の届け出によって誕生したのだが、西郷がもしそのとき東京にいれば西郷隆永か、もしくは西郷吉之助で登録したに違いない。

#西郷吉之助・隆永 #吉井友実・届け出 #父親の名前

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