『大人の見識』-③-阿川弘之

✪ベントン虐殺事件について

 

✪1915年当時イギリスはメキシコに油田を持っていた。利権回復を叫ぶメキシコ人群衆により工場が焼き討ちされ、支配人の”ベントン”は虐殺されてしまった。英国政府は居留民保護の目的で軍艦を派遣しようとした。しかし、”モンロー主義”のアメリカの強い反対に遭い、それを撤回した。議会は喧々囂々(けんけんごうごう)の議論となった。

 

「それでは今後、居留民保護のためにいかなる処置をとるのか?」と質問を受けて、外相の”エドワード・グレイ”は

 

「いかなる処置もとりません。」と答えた。

 

駐英大使館の参事官だった幣原喜重郎は、グレイの答弁に興味を持った。翌朝のロンドンの新聞各紙を読んでびっくりした。

 

「驚いたことには、政府側の新聞も、反対側の新聞も、筆をそろえて、さすがはグレイにしてあの答弁が出来る、これがイギリスのとりうる唯一の方法だといって、賞賛の辞を列(つら)ねた。何をグレイが賞賛されたのか判らない。ちょうど知り合いの新聞記者が来たから『昨日のエドワード・グレイの答弁に対して、各新聞が悉(ことごと)く賛成しているが、もし僕らの国において、外務大臣があんな答弁をしたら、その晩のうちに殺されてしまうだろう。これはどういう訳だ。』といったら、その記者は『当たり前じゃありませんか。こんな事件でアメリカと戦争が出来ますか。』ピシャリと参った。なるほど、戦争が出来なければ、ワイワイ騒ぐだけ醜態だ。かえって英国の国威を失墜する。だから黙っているほうがいい。そういう常識で考えれば、グレイの言うことが当たり前である。」

 

イギリスの一般国民が、いかに外交上の問題について常識を持っているかということは、この一例でも判るが、それは日本なんかでは想像もできない。イギリスの外交官が国際場裡で光っているのは、一般国民にこの常識があって、大局を見ており、これを押していけばどうなるかと先を見る。そうすれば余計な喧嘩をしては詰まらんという気になる。このイギリス人の常識ということを考えると、そういう国民ならば、外務大臣はどんなに仕事がやりやすいだろう。

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